2007/09/04
危険家屋の利用禁止をもっと強化するべきではないでしょうか
姉歯事件などで、危険建物の存在がクローズアップされましたが、実は、これは、新築物件に限った話です。建築基準法は大地震の度に改正されていますから、古い建物は建築基準法が要求する耐震基準を満たしていないことが多いのです。単に耐震基準を満たしていないということだけならいいのですが、崩れかかっていたり、姉歯物件よりも危険な建物であったとしても、その利用禁止を求めることは極めて困難というのが、現状の法律の運用状況です。その最大の原因が最高裁の判例の存在です。朽廃という法律用語がありますが(借地借家法附則第4条、第5条)、この解釈として、最高裁は、昭和30年6月1日判決で、「木造建物が、その柱、桁、屋根の小屋組などの要部に多少の腐蝕個所がみられても、これらの部分の構造に基づく自らの力で屋根を支えて独立に地上に存立し、内部への出入に危険を感じさせることもないなど認定の状況にあるときは、右建物はいまだ一七条一項但書にいう朽廃の程度に達しないものと解すべきである。」としているので、屋根に穴が開いたぐらいでも朽廃とはならないことになってしまっているのです。この判例が、危険家屋の法律上の判定基準となっている関係で、隣地などからの請求にも、裁判所が消極的な態度をとる原因になっています。しかし、私は、この解釈は、第二次大戦後の住宅事情の劣悪な時代の名残ではないかと思います。現代では、雨漏りのする家に住んでいる人すらほとんどいないはずですし、ましてや屋根に穴が開いた建物に居住している人などあり得ません。危険家屋の存在は、倒壊などに伴って、その居住者以外にも、近隣や通行人の生死に関わる重大問題が引き起こすということを考えれば、この解釈は改められて当然だと思います。また、構造計算など、建物の強度計算に関する技術も進んでいるので、構造計算の結果によって、建物としての使用を禁止するということにしても、人によって判断が異なるというような事態はほとんど生じないので、不公平な結果になることを防ぐことはできます。ですから、法律を改正して、構造計算の数値によって一定水準以下の建物の使用は禁止してしまうことにするわけです。これは、ある意味で、DNA鑑定などの技術が発達していなかった時代に制定された民法で女性の待婚期間が設定されていたりして前の夫の子どもとしてしか戸籍に掲載できないようになっていることと似た問題とも言えるように思います。時代が変化した以上法律は変えるべきであって、裁判所が建物が使用できるかどうかを判断しにくいのであれば、構造計算による耐震基準数値をベースにした朽廃に関する基準を法律で決めてしまえばいいだけの話だと思うのです。借家人や借地人の保護に欠けるという非難を受けるかも知れませんが、人の命や怪我に関わることと借地権や借家権などという財産権のどちらに重きを置くかという問題であると考えれば、上記の非難は的外れのように思います。また、隣地の居住者など建物の強度に重大な利害関係を有する人からは、危険家屋の所有者に対して取壊を求める権利を認めるべきだと思います。ご近所づきあいの関係でクレームが言いにくい人もいるということを考えると、市町村などの地方自治体に取壊を命じることができるという制度ももっと実効性のあるシステムに変更するべきだと思います。建築基準法第10条で、危険な建築物に対する措置ができるようにはなっているのですが、実際には、所有者が自治体に申し入れても、賃借人がいるというだけで発令しなかったりするなど、使用禁止命令などほとんど発令されることがないというのが現状だからです。私は、この条文が使用禁止命令の発令を自治体の権利としているのが間違いで(この条文は、命ずることができるとしているだけで、使用を禁止しなければならないとはしていません。)、命を本気で守ろうとするのなら、危険家屋の使用禁止命令は自治体の義務とするべきだと思っています。