2010/07/22
修習生に弁護士以外の道を勧めることもある現実
再び厳しいお話。
司法修習は、本来、法律家を社会に送り出す仕組みです。従って、司法修習を終えた者は、弁護士や裁判官、検察官の道に進むことが予定されています。昔は、例外的に、大学の法学部の研究者になったりする方がおられましたが、極めて少数に限られていました。先日、私が出席した司法修習の指導担当者の全国協議会で、日弁連の司法修習委員会の委員長は、我々の使命は一人前の法律家を品質保証して社会に送り出すことにあるとまで言われていました。
しかし、現在では、弁護士人口の増加もあって、インハウスローヤーとして、企業の法務部に就職する方も増えています。新62期までは、司法修習を終えてインハウスローヤーとなられる方のほとんどは、弁護士の資格を有しながら企業に入られていたようです。ただ、弁護士会の会費の負担の問題があるため、弁護士会に登録することなく企業に就職する方もでてきているようです。司法修習を終えながらも、弁護士にはならない人が増えてきているのは、このような進路がでてきたことも背景となっているものと思われます。
ただ、我々司法修習を担当する者としては、弁護士や裁判官、検察官を育てるために、修習指導を行っているのですから、弁護士ではない道もあるよと修習生に告知することには、心情的につらいものがあります。修習生としても、弁護士や裁判官、検察官の道を目指して勉強してきた方が多いわけですから、弁護士資格を持たないまま企業に就職することになるということに納得できるかというと、そう簡単なことではないと思います。
けれども、今年は、そうも言ってはおられないほどの就職難となっています。元々、修習生が修習を終えてから行き場がなくなるというようなことは予定されていませんから、修習終了後に職がなくても失業保険をもらえるわけでもありません。就職先がなければ路頭に迷うことになってしまいます。そうなるとかわいそうですから、インハウスローヤーの道についても、主には弁護士会が働きかけて切り開きつつあるのが、現状です。ただ、この活動には、弁護士として上記のような葛藤があるということ、特に弁護士資格を持たないインハウスローヤーを作り出すことは弁護士会として本来やるべきことでもないということを、修習生にもロースクールの関係者の方々にも理解してもらいたいと思います。
ただ、更に厳しいことを言えば、残念ながらインハウスローヤーの需要もそれほど多くはないのです。おそらく今年で供給過多になる可能性が高いように思います。そうなると、来年からは、修習生にはさらに厳しい就職戦線が待っているということになりそうです。これから、司法試験を受験しようとされている方は、この現実を理解した上で進路選択をされた方がいいのではないかと思います。
なお、誤解があるといけないので申し添えておきますが、私は、弁護士としてのインハウスローヤーは、社会的にも有用な活動をされていると理解していますし、もっと増えるべきだとも思っています。私が問題と思っているのは、司法修習を終えながらも、弁護士資格を持たずに企業に入る人が増加する傾向が生じつつあることです。
このお話を書いた後で、日弁連としても、今年の修習生の就職状況が危機的な状態にあるとして、会長が記者会見したということが記事になっていました。4割が就職先未定ということですが、アンケートに回答している人の4割ということなので、実際は、もっと厳しい状況になっている可能性があるということに留意する必要があるように思います。