2010/11/12
司法試験の出願者数の推移について考えてみる
旧司法試験の合格発表が11月11日に行われました。59名の最終合格で、論文式の合格者数よりも最終合格が多くなりました。これまで旧試験は新試験よりも先に最終合格の発表があったのですが、今年は、なぜか新試験よりも遅い発表となっています。来年は、口述試験しか行われないということで、事実上最後の旧試験ということですから、司法試験の受験者のことについて、法務省が公開しているデータを整理して考えてみました。
司法試験の出願者数と合格者数の推移を別表で整理してみました。出願者は、2万人を超えるぐらいで推移していたものが、平成9年ぐらいから急激に増えて、平成15年をピークにして平成18年から激減していることがわかります。この減少の幅は次第に減ってきていて、平成21年からは、全体としては漸減しているという評価ができそうです。
この点、最近になって出願者が減っている原因を合格者数が増えないからだという意見もあるようです。しかし、出願者数のピークは平成15年です。この当時の合格者数は1200名に達していません。その後は、合格者数は増えている中、出願者が減ってきているわけです。その原因をどう考えるかということが問題ではないかと思います。
まず、平成15年以降に急激に出願者が減った原因は、試験制度の変更、すなわち、ロースクール制度の登場であることは明らかでしょう。平成15年にロースクール制度が発足し、平成18年に最初の合格者が輩出されたということがあるからです。つまり、旧試験を受験していた人がロースクールからの新試験に乗り換えるかどうかの判断をした結果、受験をあきらめた人が増えたというのが、平成15年をピークに急激な減少が始まった理由ではないかと推定するのが合理的なように思います。そう考えると、来年は、旧試験が口述試験しか行われませんから、1万人を超える出願者の減少が生じそうです。おそらく受験者の総数は1万4千人を下回るのではないかと思われます。結果的に旧試験しかなかった頃と比較しても、受験者数が大幅に減ってしまうことになりそうです。
では、その前に、そもそもなぜ急に受験者が増えたかということですが、平成11年に内閣に司法制度改革審議会が設置され、平成13年に司法制度改革推進法が成立し、平成14年の年末の第155回臨時国会で、ロースクールに関する法案が採択されています。この議論につられるように、平成10年に出願者数が3万人を超えて、平成15年にピークを迎えたことを考えると、司法制度改革の話の中で、合格率の高いロースクール制度を創ることで法曹になりやすくなるというような話が出回ったことに踊らされた方がかなりいるのではないかと推察することも可能なように思います。
平成20年からの受験者総数の減少については、合格者数が増えないからではないということは、合格者数が増えている中、受験者数が減ってきていることに加えて、新司法試験の受験者数が次第に増えてきていることからも明らかのように思います。むしろ、新司法試験については、三振を恐れて受験を手控えていた人たちが、新たにロースクールを卒業した人たちと一緒に受験を始めたということと前年度に合格できなかった人が再受験をしていることで、受験者数が増えてきているようです。ただ、私には、思いの他、この数年の旧試験の受験者数の減少が大きくないように思えます。これは旧試験の受験者からロースクールを経由しての受験というルートが細くなってきているのではないかと思います。要するに、受験生側にロースクールを経由して司法試験を受けるという道をあきらめた人が増えてきているのではないかと思うのです。
その原因について、私は、司法試験に合格したとしても就職が困難になっていることが、受験生の中に情報として浸透してきたことが原因だと思っています。なぜなら、平成19年に就職した現行60期からは、登録できる時期に弁護士にならなかった人が初めて5%ほどになり、その後も次第に増加しているという就職の困難さを示す指数の上昇と受験者の減少傾向が反比例しているように思えるからです。
なお、これはあくまでも個人的な推測に過ぎません。ただ、職業としての法曹に対する魅力が急激に失せてきていることだけは確かなように思います。