2011/07/05
司法試験受験生の数の変遷に関する考察
久しぶりに法曹人口の問題で、データ分析をしてみたいと思います。
まず、下記の表は、法務省が公表してきた司法試験に関するデータを整理したものです。
司法試験出願者数推移表.pdf
これによれば、旧試験の受験者数は2万人を超える程度だったものが、平成10年(1998年)頃より急増し、平成15年(2003年)にピークに達し、5万人を超えます。
司法試験は習得する科目が多いため、受験勉強の開始が受験開始の2年ほど前であることが多いはずなので、受験を始めようとする決意は、2年ほどずれることになるだろうと思います。そこで、急増が始まった年の2年前の平成8年(1996年)がどんな年だったというと、丙案が導入された年です。合格者数も800人近くになった年で、その後も合格者数は増えると公的に約束されていた年です。
つまり、丙案と合格者数の増加予測が受験者数を増やす結果をもたらしたということが言えるように思います。
その後は、平成16年(2004年)のロースクールの開校と同時に受験者数は減少に転じますが、この減少の年には、旧試験から新試験に乗り換えた人がいるということを忘れてはいけないと思います。そして、この旧試験からローに転じた受験生は、ローに在学している間は受験をしていないことになります。つまり、この間も司法試験の受験者数は増えていたということになる可能性があるように思います。実際、これまでの修習生の中には、旧試験をあきらめてロースクールを経た新試験に切り替えた人がかなりの割合で存在しています。
その後に、受験者数が大きく減少したのは、平成18年(2006年)ですが、この年に何があったかというと、旧試験の合格者数の大幅な減少です。その後の旧試験の受験者数は、合格者数の減少と共に減少しているように思います。厳しい受験制限がありますから、ほとんどは受験をあきらめたことになるのでしょうが、この旧試験の受験者からロースクールに転じた人がでている可能性は否定できません。
以上の数字からしますと、受験生が急激に増加した時代の受験生がローを通じて合格してきているということも言えるように思います。
昨年で旧試験は事実上終わったわけですが、その時点の受験者数は1万6千人ほどです。今年の予備試験の受験者数が約9千人ですから、新しく受験を始めた人の存在を考えると、8千人ほどがロースクールを経由しない受験をあきらめたということになろうかと思います。
旧試験が事実上終わった後で、新試験のためにロースクールに入学したという人は、ほとんどいないと思われます。なぜなら、そもそも厳しい受験制限があって、ローに入学しても司法試験を受験できない人がほとんどとなりますし、実際にも、下記の表記載のとおり、ロースクールの適性試験の出願者は、平成16年の制度設立以来毎年急激に減少しており、6万人近くあったものが1万人ほどになっていて、旧試験が終了した今年も増えることはなかったからです。
出願者数推移表.pdf
以上のデータをみる限り、私は、平成15年までの受験者数の急増が異常であって、これは合格がしやすくなるというような宣伝が行われた結果ではなかろうかと思っています。その上に、仮に落ちたとしても、ロースクール制度でほとんどの人が合格できるというような話が広まった結果、旧試験からロースクールに移っての新試験挑戦という形で受験生の層が移転したということではないかとも思っています。
このように考えてみると、平成8年頃の受験者の増加が、合格者の増加に連動していたのに対し、最近の数年は、合格者の数は2000人ほどで安定しているにも関わらず、受験者の数が減少していることは、たとえ合格しても就職もしにくい状態だということがようやく学生にも広まってきたからではないかと、私は推察しています。むしろ、修習生の就職難がこれだけ厳しい中でも、司法試験受験生の減少がこの程度に留まっているのは、ローに入学してから就職難を知ったという人や旧試験からローへの移行組は、今さら受験をあきらめるのは難しいために受験し続けることになっていたからではないかと思います。
しかし、今では、かなりの法学部生が、司法修習生の就職難を知っていますし、そのことは社会人にも広まっていますから、これから新たに受験しようとする人は減るでしょう。また、旧試験からのローへの移行には厳しい制限がある上に旧試験の受験者の全体数が急激に減ってきていたわけですから、旧試験受験者からの供給もほぼ途絶えるということになりますので、二重の意味で急激な減少があるのではないかと予想しています。
旧試験を非難するようなことから出現したロースクールが、私が推論したように、実際上は旧試験の受験者によって支えられていて、旧試験の終了とともに受験生からも見放されて、厳しい状況に陥っているとすれば、何とも皮肉な結果のように思います。
というようなことで、私は、このままでは、司法試験の受験者数の減少には歯止めはかからないのだろうと思いますし、受験したところで、教育投資と比較してペイしない所得しか得られないということであれば、受験コストを下げよという要求がでてきて、その要求が制度を改革する方向に導くのではないかと思っています。