2014/05/12
法律事務所に弁護士として就職するに際しての留意点
このような記事を公表しなければならないということは極めて残念なことですが、就労環境としては問題のある弁護士事務所が増えてきているという現実がありますので、修習生の中に人生選択を誤るような方がでないように、老婆心ながら警告を発しておくことと致します。
私は、他の弁護士と比較すると、進路選択に関して相談を受けることが多い部類に入るのだろうと思っています。この相談は、就職前の就職先の確保や選定に絡んだものが圧倒的に多いのですが、たまに就職後の悩みなどの相談に乗ることもあります。就職後の相談と言うと、昔は、ボス弁と言われる所長弁護士との人間関係の問題で早期の独立を求められている(早期の独立ということの意味は社会一般で言うとクビになるという評価に等しいものですが、解雇というような話にせずに独立というように自分で自主的にやめたという形式を整えるが弁護士のずるいところです。)というような相談が多かったのですが、最近では、就職したけれども条件がひどく悪いという相談を受けることが増えてきています。
このような事例の中には恐ろしい程の長時間労働とか、罰金制度などの名目で賃金を大幅にカットして支払うべき給与を支払わないなど労働基準法に明らかに違反しているようなものとか、最低賃金制度にも違反しているのではないかと思われるほどの低賃金や、個人事件を認めると言いつつ毎月10万円を超えるような額の負担金を支払うことが求められるために毎月の手取額がほとんどゼロに近いものになってしまうというものもありますし、突然に労働条件が変更され、翌月から従前の給与を無視した歩合制とされ、給与が半減するというような事例も聞いています。勤務弁護士の人格を否定するような発言が繰り返されるといういわゆるパワハラに該当するであろう事案もあります。これはさすがに直接に私が相談を受けたことがないことですが、非弁提携事案が多いなどグレーな仕事をしている事務所のように思うのでやめたいというような相談を受けたことがある弁護士もいるそうです。
法律を守るべき立場の弁護士事務所でそんなことをしていいのかと思われるでしょうが、実際にこのような事例がいくつもあるというのが、今の弁護士業界の残念な実態です。ただ、それでも、勤務弁護士の不当な解雇や低賃金、パワハラなどをめぐる問題が裁判となるようなことはこれまでほとんどありませんでした。その理由としては、まず第一に、弁護士は資格さえあれば仕事ができる、つまり個人事業主にすぐになれるのだということでの弁護士の労働者的性質を否定する考えがこの業界では支配的となっているということがあるように思います。第二に、勤務弁護士として法律事務所に入所することが師匠と弟子というような徒弟制度的な関係ととられていた時代が長く続いていて弟子が師匠に反旗を翻すことは難しかったこと、第三に弁護士がそのような被害を受けているということが自分の権利すら守れない弁護士という評価につながって少し恥ずかしいという意識が働くために表沙汰にしにくいこと、第四に弁護士の業界が狭かったということもあって、ボス弁とけんか別れのようなことになれば後々仕事がしにくくなるということも問題をオープンにしにくくさせる方向に働くことがあったからだろうと思います。今後は、裁判になるような事例もでてくるかも知れませんが、以上指摘したような勤務弁護士の労働問題を陰湿化する事情は、弁護士の数が増えても、さほど大きく変化することはないでしょうし、勤務弁護士の労働市場は勤務弁護士側が不利という状態は悪化するばかりで改善の兆しすら全くないので、おそらくこの状態はしばらくは改善されないし、むしろ悪化してゆくのだろうと思います。
となりますと、弁護士事務所に雇われる側が自分で自衛するしかない、つまり、ひどい執務環境の事務所に入所しないようにすることが求められることになります(ただ、いい事務所がみつからないようであれば、もはや弁護士にはならずに早々に別の道に進むのが最善の策だろうと思いますが、あえて弁護士になるということであればせめて問題のある事務所に入ってはならないということになります。)。
その見分け方としては、まず、その事務所に入所した弁護士が1年も立たずに退所したりしていないかということがわかりやすい目安となります。実際に入所してみてこんなところだったということで、やめていくことになるわけですから、3年ほどの間に何人も入所しては退所し、再募集がかかるということが繰り返されているところは、まずやめた方がいいでしょう。次に、その事務所が所属している弁護士会の他の弁護士に尋ねるという方法があります。この種の問題事務所は、弁護士会の中で話題になることがありますから、そのようなことが噂になっているとすれば、やめておいた方がいいということになります。より直接的な方法としては、最近やめた弁護士に尋ねるという方法が極めて確実だと思います(答えてくれるかどうかはわかりませんが、いい事務所であればいい事務所だと言ってくれるはずですね。)。また、当該修習地の修習生が就職しておらず、他の修習地から就職している人ばかりという事務所は要注意ということも言えるだろうと思います。最もよく情報が入るはずである現地の修習生が就職しようとしないところは、条件としてはよくないことが多いはずです。事務所訪問にいったときの事務員さんの雰囲気も大事なことだと思います。何となく暗い人ばかりで修習生にも他人行儀であまり愛想がよくないということだったら、事務所の状態がよくないからかも知れません。弁護士の怒鳴り声が聞こえてきたとしたら、パワハラの危険信号が真っ赤に点滅しているということになります。
以上が間違った事務所に入らないための私なりの目安です。参考になるかどうかはわかりませんが、不幸な選択をして後悔するような人が少しでも減ってくれればと思います。