2014/06/17
予備試験の制限は法科大学院にプラスになるのでしょうか?
新聞報道によりますと、予備試験の制限を東大や京大などの法科大学院が連名で訴えているということらしいのですが、私は、予備試験を制限することは法科大学院にはプラスに働かないように思います。
法科大学院が十分な数の学生を確保できていたのは、制度が発足したばかりの頃です。法科大学院の発足前の段階では、司法制度改革が夢のように語られたことから、法学部の学生以外の他の分野からも学生を集めることができていたようです。ところが、法科大学院発足前の段階から既に発生していた司法修習生の就職難が次第に大学の法学部学生にまで知られるようになるにつれて、新たに司法試験を受験しようとする人は減少してゆきました。この就職難は、法科大学院の第1回卒業生が輩出される前の段階で既に発生していましたから皮肉なものです。それでも、法科大学院が学生を確保できていたのは、要するに旧司法試験の受験生が移ってきてくれただけのことです(64期ぐらいまでは、旧試験の受験生でしたという司法修習生がかなりの割合を占めていましたが、67期に占める旧試験受験生の割合は相当に減少しています。)。新しく受験しようとする人の数が毎年減少していく一方で、合格者数が2000名程に増やされたことで受験生から合格者になった方も増えたことも相まって司法試験の受験生の総数はさらに減少し続けています。
今発生している予備試験の受験生の増加という現象も、受験生の中での移動に過ぎないと思います。法科大学院に通う学費や時間が敬遠されている中、予備試験の道も制限されるとなると、受験生は行き場を失うことになりますから、さらに受験生の供給が減少することになります。予備試験を受験してみて手応えはあったとか法律がおもしろくなったという人が法科大学院でもう少し勉強を続けようという流れが、最初から遮断され、断ち切られることになるからです。
このような私の考えに対し、「予備試験組が不公平とならぬよう割合を配慮すれば合格者が増え、実績ある法科大学院から崩れることとなり、法曹養成牽引の主要なエンジンが損なわれる」という考え方もあるようですが(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/hoso_kaikaku/dai8/siryou10-3.pdf)、実績ある法科大学院のある法学部は、一般企業や公務員への就職で有利なところばかりですから、予備試験まで制限されれば、わざわざ法科大学院に進むことなく企業や公務員の道に進む学生が増えることは火を見るより明らかなことです。つまり、そのような大学では、予備試験が制限されたとすると、法学部には、法律家を目指す学生が法科大学院が設置される前のようには集まらず、国家公務員を目指すような学生が増えることになり、法律学の習得を目指して勉強する学生が内部的にも減少して、法律学研究の学生育成にも問題が生じることになりかねませんし、自校が設置している法科大学院に内部進学する学生も減って他の大学からの学生が増えることになるでしょう。これは、当該大学の法学部の偏差値の低下をさらに進めて、優秀な人材が他の大学や学部にとられてしまうことになる危険性の方が高いと思います。
私は、今行うべきことは、予備試験の制限などという姑息な受験生泣かせの施策ではなく、司法試験の合格というものの持つ魅力を再度復活させることだと思います。この復活という点では、司法試験合格者という方々の所属する労働市場の需給関係を市場のニーズに合わせて変えることしかありません。つまり、司法試験合格者数を減らすこと、これが今喫緊にやるべきことだと思います。職業としての魅力が復活すれば、法科大学院を目指す学生も自然と増えてくるはずです。そのような環境の中で、法科大学院は、予備校と自由競争して勝ち残ればいいだけのことです。学生が学費を払ってでもいきたいという教育をされている法科大学院は勝ち残るはずでしょう。