コラム
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遺言書の偽造
遺言書については、偽造されたものであるかどうかが争われることがあります。そのほとんどは、自筆証書遺言です。公正証書遺言については、公証人によって本人確認が行われますので、偽造というと、身代わりで別人に遺言させるというような場合しかないということになり、公証人に見破られやすい上に、公正証書原本等不実記載罪という重大犯罪となってしまうこともあって、事例としてはほとんどないのです。
自筆証書遺言については、全文を遺言者自らが記載しなければならないとされていますので、一部でも代筆されたりしていると、遺言書としては無効となってしまいますので、偽造の問題は、署名だけでなく、本文の記載についても問題となります。
筆跡が本人のものであるかどうかということについては、筆跡鑑定という制度がありますが、素人の方には、筆跡鑑定をどなたがやってくれるのかもわからないということになるでしょうから、筆跡鑑定などをお考えになるのであれば、ベテランの弁護士に相談された方が無難です。但し、ご注意いただきたいのは、筆跡鑑定があれば、偽造だと判定されるとは限らないということです。日本の裁判では筆跡鑑定はあまり重視されていないような傾向があることもあって、偽造の立証は簡単なことではないのです。
ただ、筆跡が全く無視されるようなことはありません。筆跡が明らかに異なるような場合には、偽造されているという判断がされやすくなります。この点、筆跡の鑑定にあたっては、本人が書いたことが確実にわかる資料も必要となりますが、お年寄りの場合、晩年は筆無精となられることも多く、本人が書いたことがわかる比較対象文書がないことも多いのです。逆に言いますと、自筆証書遺言をする場合には、遺言で遺産をもらう予定の人には、自分が書いた文書を別に渡しておくことなどの配慮も必要となります。
また、偽造されたものかどうかということは、筆跡だけで判断されるものでもありません。当時の身体能力や精神状態も重要な考慮要素となります。例えば、要介護の判定を受けていることなどは、重要な判断材料となります。
2012年8月 著 弁護士 白 浜 徹 朗