2009/03/03
合格者を増やすことが逆に弊害を生むのでは?
日本弁護士連合会市民会議なるものがあるようです。
この方々が、「司法制度改革実施後5年近くが経過した現在、当初の目論見を覆しかねない大きな問題が生じているように見受けられる。その第一は、新司法試験合格者数の伸び悩みであり、第二は、法科大学院における法曹養成教育の効果と成果についての疑問である。」と言われているようです。そして、「定員削減のみに重点を置いた施策は、学生や教員の不安を助長するだけでなく、かえって法科大学院の東京集中化を促進するだけではないかなど、極めて疑問が多いところである。」とし、「法学未修者の新司法試験合格率の著しい低下は、多様な人材の育成という、法科大学院の目玉ともされた目標に赤信号を点す危機的な事態であり、カリキュラムの編成や教育方法に根本的な問題のあることが伺える。」とも言われています。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/judical_reform/siminkaigi/data/youbousyo_6.pdf
http://www.nichibenren.or.jp/ja/judical_reform/shiminkaigi_a.html
しかし、この話は、今の合格者数に比して既に社会的需要が追いついていないという現実を無視したものですし、急増の反面として、修習期間が短期化し、指導する弁護士にも不足が生じていて、実務に接する時間も限られてしまっているという司法修習の希薄化が急激に進行していることが忘れられています。合格するまでのハードルを下げた上に促成栽培が行われているということで、本当に質の維持が確保できるのかということは誰が考えても疑問に感じるところではないかと思います。しかも、供給過大に伴う就職難が、修習生を就職活動ばかりで疲れてしまうような事態に追い込み、修習に費やす時間がさらに削られているということもおわかりになっていないように思います。この実態は、修習生を身近に世話する立場にはない日弁連の理事者クラスでは知らない現実ですから、知らされていなくても当然かも知れませんが、修習環境はこの数年で大幅に変わっているのです。もはや、合格さえすれば何とかやってゆけるという時代ではなくなってしまったわけです。そのことによって、どんな問題が生じているのかということをまじめに訴えている人たちを十把一絡げに、司法改革の妨げであるかのごとく非難するのはおかしいのではないかと思います。
また、未習者の合格者が減っていることについては、未習者≒転職組と考えた場合、未習者の就職が極めて厳しい状態に置かれていることが密接に関連しているように思います。合格しても就職がないような資格を目指して転職する人は少ないと思いますから、志願者が減るのは当然のことだと思うのです。皮肉なことに、いわゆる転職組であっても、この「司法改革」実施前の供給が少なかった時代では、就職は容易だったのですが、今では、転職組に年齢という壁が立ちはだかっています。世間では30代でも転職が難しく、40代だと絶望的と言われていますが、それが司法試験合格者にも当てはまる事態になっただけのことなのです。弁護士が数名という事務所がほとんどという中で、現職よりも年齢が高い人は雇いにくいという日本社会の現実が、弁護士事務所ではより顕著に働いていることになります。私が最近出会った転職組の修習生はいずれも優秀な人で、人材としても魅力的でしたが、就職がないということでかなり苦労されておられました。また、残念ながら、一般社会と同様、女性の就職も厳しい状態に陥っており、優秀な女性でも就職がなくて困っておられる方が多くなっています。女性差別発言をしないようにとの警告が日弁連から出回っているのが現実なのです。
このような就職難の主な原因は、供給過剰にあるのですから、無意味な過剰供給は早急に改められる必要があるわけです。問題は、しごく単純な話なのです。医学部を卒業された方が医師試験に合格しても就職口がないということなど、医学部の受験生や学生は考えてもいないことだと思いますが、なぜ、弁護士だけが就職口もないのに、資格合格者を増やせと言われるのか、私には理解できません。
ロースクールの学生にしてみれば、そんなことは事前に説明されていないということになるかも知れません。しかし、だからこそ、この現実は知ってもらう必要があるように私は思っています。合格したら、就職活動に追い回されることもなく普通に修習していたら就職先はみつかるし、年齢が高くても、女性であっても、その他のハンデがあっても就職口はあるというような程度には需給関係が調整されるべきだと思います。