2017/12/26
あなたの会社大丈夫ですか?
倒産事例に学ぶ企業危機予防法
あなたの会社は、元気ですか?(弁護士からみた企業倒産の防止法)
1.はじめに
弁護士は、いわば社会的な病理現象に対処し解決するという意味で、社会的な医者という側面を持っていますが、これまでの弁護士は、訴訟などで、発生した事件についての解決を図るという外科医的な対処が多かったように思います。でも、弁護士が問題事例を取り扱った経験を生かせば、問題発生の予防ないし最悪な事態の回避につながることも、アドバイスできるのではないかと思います。
特に、最近では、倒産に絡んだ相談を受けることも多いのですが、私は、倒産処理に関連した仕事をすればするほど、企業倒産が及ぼす悪影響がいかに重大なものかということを痛感させられます。ですから、言うまでもなく、倒産に至らないようにすることが最も大事なことなのですが、弁護士のところに相談に来られるときには、時既に遅しというものが多いのが現実です。
ですから、元気な企業に対して倒産に至らないようにしてもらうためのアドバイスをしておくことが大事ではないかなと思います。そこで、この機会に、倒産事例から学ぶ企業倒産予防法というものについて、私が思いついたことをご紹介しようと思います。
2.予防法
(1) 体力の増強(無駄遣いをしない、使うべきところに金を使う)
病気の一番の予防法は、体力をつけることです。倒産に至らないためにも、企業としての体力をつけることが一番重要です。この点、倒産の主たる原因は、やはり、放漫経営であり、無駄な出費をしていることが倒産の遠因となっていますから、無駄な出費を抑えることは重要です。
例えば、豪華な本社屋の建設とか、社長室や会議室など生産や営業に直接の関係を有しないところに金をかけているなどの事例は、倒産会社によくみられる例です。
逆に、工場などの生産設備への投資を怠って、競争力が弱まったというのも、倒産会社によくみられることですが、最近では、コンピューターシステムなどの整備が遅れて、日々の売上や経費の管理ができず、手作業で棚卸をしないと決算ができない企業など、情報関連のインフラの構築ができていないことで倒産に至ったという事例もでてきています。つまり、企業としての足腰、神経組織には充分な投資を行うことも大事です。
また、当然ながら、基礎体力をつけるという意味で、資産の備蓄も重要です。最近では、不動産などへの投資で失敗した事例が多いとは思いますが、いざというときに、あてになる資産がないと、資金繰りが息切れして、倒産に至るということになりかねません。逆に、債務超過状態なのに、株主対策などで無理な配当を行ったり、早期退職などで無理な退職勧誘を行ったりすると、資産が流失して、体力がそがれることとなります。高利な借入に走ったりすることも、金利として資産が流失しますから、同じ事です。
(2) 病気の早期発見(取引先等とのつきあい方)
いわゆる「ごとび」という商慣習がありますが、これは、お取引先に足繁く通うことで、その状況をよく理解しておくということで、取引上痛手を負うことを避けるという意義があると聞いたことがあります。ここで、重要なことは、兆しをつかむということです。「おかしいなと思って取引を中止しようと思ったのだが遅かった」という話はよく耳にすることです。また、取引先がどこにどのような資産があり、どこがメインバンクなのか、主要な売掛先がどこで、どのような売掛金があるのか、社長の資産状態はどうなっているのか、などということがわかっておりますと、もしものときの対策上も役に立ちますし、交渉の際も有利な立場に立つことができます(敵を知り、己を知れば、百戦危うからずです。)。
(3) 病気の見分け方(どんな企業が危ないか)
飛び込みで突然仕事を発注してくる企業には、従前の取引先からの仕入れが困難になっているような企業が多いように思います。最近では、インターネットで、企業情報を入手したりすることもできますから、そのような企業情報が得られる企業かどうかが、重要なポイントとなるように思います。そのような情報を確認することなしに、取引を行ったとすれば、それによって失敗しても自己責任ということになります。
また、支払の遅れなどは、当然のことですが、急激な仕入の拡大も、何らかの問題が背景にあることがあります。大抵は、あまり合理的な説明ができないことが多いので、理由を確認する必要があります。手形での支払が増加することも同様ですし、期日を先に延ばすということも同じです。事務所に何となく荒んだ雰囲気があるというときも、企業内部に問題があることがあります。給料の遅配などは問題外です。
(4) 病気にならないおつきあい(堅い取引の勧め)
大企業ともなると、取引先に保証金を要求したりしている事例があります。伝票の記載方法にも注意している企業があります。伝票の記載がしっかりしている場合には、倒産の場合でも先取特権という権利を行使したりすることができることがあるのです。もちろん、現金取引が一番強いのですが、手形をもらうことの方が手形をもらわないよりはましです。高額な取引の際には契約書を作成した方がいいでしょう。商品の継続的な取引がある場合には、基本約定書を締結して、債権の保全策をまとめておくこと、包括的な保証をもらうことなどが有用です。このような形で、債権の保全を図っているところは、不良債権をつかまされることも少ないように思います。
(5) かかりつけの医者を(顧問弁護士の勧め)
もし、取引先が倒産したとしても、影響を最大限に抑える必要があります。予防策がうまくとれていても、法的な手続をせねばならなかったすることがありますが、その際に、すばやく動ける弁護士が近くにいるということが大事ではないかと思います。また、弁護士に依頼しなくとも、弁護士のアドバイスを受けて動くことで、かなりの解決が図れることがあります。その意味で、いざというときに頼りになるような顧問弁護士を確保しておくことは重要です
。
(6) 早期治療の勧め
倒産処理は、自己破産だけではありません。最近話題となっている民事再生法という処理では、経営権を保持しながら、再建を図ることができます。ただ、これも、ある程度の資金的余裕があって、再建の可能性がないと申立することすらできませんし、申立には、相当な費用がかかります。ですから、再建しようと思ったら、早期に相談されることが肝要です。
3.再建の方法
(1) 早期着手
もし、会社再建ということに取り組まねばならないという事態に陥ったら、すぐに、弁護士に相談して下さい。早ければ早い程、選択の幅も広がり、再建の可能性が高くなります。
(2) 各種方法
会社再建という方法は、法的な手続と法律に依らない手続があります。後者は、任意整理と言います。法的な手続としては、民事再生、会社更生、特定調停の申立があります。なお、再建ではなく、清算を行う手続として、特別清算、自己破産があります。
(3) 民事再生
和議手続を改正した手続ですが、基本的には経営権の交代がないということと、簡易迅速な手続であるというところに特徴があります。この手続は、申立会社が主体的に行う手続ですから、企業として、最も重視しなければならないのは、申立を代理する弁護士の選定です。申立を担当した弁護士が、申立から最終的な再生計画の履行までずっと関与することになりますから、この手続で最も重要な立場にあるのが、申立代理人の弁護士だからです。具体的には、法人の破産管財人とか、和議の申立などの経験のある弁護士に依頼することが肝要です。
この手続については、何でも再建が可能かのごとき幻想が広がっているような感触がありますが、前にも述べましたように、再建の可能性がなければ、破産に移行するということになるので、注意を要します。裁判所は、中立な立場の存在であって、再建を支援する機関ではないのです。また、相当な費用もかかりますから、その点の資金確保と、申立後の資金繰りの目処がないと利用できないということにも、注意が必要です。
(4) 会社更生
会社更生は、大規模な企業の再建に適した手続です。担保権者の担保実行や租税債権の行使についても、ある程度の対応ができることに特徴があります。ただ、経営者の経営権は失われること、申立に必要な予納金が莫大なものとなること、手続が厳格なため、時間も多少かかる傾向にあることが、民事再生と比較して、利用がしにくい点です。この手続も、申立代理人の選定が重要になりますが、民事再生と比較すると、申立代理人に、あまり経験がなくても、心配は要りません(会社更生を申し立てたことのある弁護士を探すことの方が難しいぐらいに、申立経験のある弁護士は少ないのです。)。
(5) 特定調停
特定調停というものは、負債の減免と分割払についての話合の機会を設けてもらうという手続です。まさに、不良債権処理のための手続として新たに新設された手続です。中小企業を念頭において新設されたのかも知れませんが、大企業が利用してはならないということにはなっておりませんので、企業の再建にも、有益な手続です。金融機関としても、合理的な調停ができれば、不良債権償却がやりやすいという点で、この手続の利用価値があります。ただ、調停ということで非公開となっていることで、具体的な事例報告が少ない点で、あまり知られていない手続となっているのではないかと思います。
(6) 最後に
以上、色々な手続についてご説明いたしましたが、何度も繰り返しましたように、再建のための手続は、やりたくてもできないことがあります。早期の相談が大事ですし、日常注意して、そのような相談をしなくてもすむように、心がけて、体力を蓄え、病気にかからないように精進すること、これが倒産防止につながるように思います。
著 白浜徹朗