2012/07/24
OJT以前の問題が発生しつつあるようです
OJTとは、オンザジョブトレーニングのことを意味しています。実務体験を積みながら、仕事を覚えていくということで、最近では、弁護士の即独という問題に絡んで、その重要性が指摘されています。
司法修習生をお預かりして指導してゆくときに、今の状態で明日から弁護士としてやってゆけるかということを尋ねることがよくありますが、ほとんどの修習生は全く自信がないと答えます。弁護士業務には、細かなノウハウがありますし、特に大事なことは、この事件でどの程度の着手金とか報酬をもらうべきかという営業上の問題もあることから、弁護修習で実務に触れると、明日からこの仕事をやってゆけるかというと自信など持てないということになってしまうわけです。この点、現在の弁護実務修習は2か月しかありませんから、この2か月の間で、OJTと言えるほどの実務経験を積むことは不可能です。必然、弁護士事務所に就職してからのOJTが大事ということになってきます。
ところが、需要を無視した大量供給が続けられているために、残念ながら、弁護士事務所での雇用に恵まれず、最初から独立開業する人が増えているわけですが(これを即独と呼ぶことが多くなっています。)、このような方々は、実務上の指導を受ける機会がないため、自力で仕事を覚えなければならなくなります。これが、果たして国民にとって喜ばしいことなのかというと、私は、大いに疑問に思っています。手探りで仕事をしているような弁護士へ仕事を依頼することは、依頼者からすれば、不安の方が強くなると思いますし、無駄な訴訟を提起したりとか、手続上のミスがあったりすれば、被害すら発生しかねません。
このように即独はあまり好ましいことではないと私は思っていますので、修習生には、即独は勧めないようにしています。
ところが、先日、他の弁護士から耳にした話によると、以下のような事例も発生しているようです。
まず、委任状が委任状の形式を満たしておらず、白紙の用紙に委任状として、名前と住所が記載されているだけで、委任事項が全く欠落している書類を委任状として裁判所に提出している弁護士がいる(これでは、訴訟委任を受けたことにならないと思います。)。後遺症12級の交通事故事案で6千万円もの請求をしてくる弁護士がいる(12級だと慰謝料は224万円で労働能力の喪失割合は14%なので、6千万円の請求は明らかに過大です。印紙代は請求額に応じて高くなりますし、弁護士費用も増えますから、過大請求は弁護士倫理上、大いに問題があります。)。訴状で、請求の趣旨を申立の趣旨と記載し、請求の原因を申立の理由と書き、明渡請求事件の付帯請求につき明渡の原因とは別個の請求原因を書いている弁護士がいる。
私が実際に経験した相談では、区役所で離婚のことで法律相談を受けて、養育費の相場を尋ねたけれども「相場はわからないから、弁護士に聞いてくれ」と相談している弁護士から言われたので、今回先生のところで相談を受けることにしたという笑い話のような本当の話があります(京都では、弁護士会と京都市との協議に基づいて、養育費の相場がわかる資料が各区役所に備え付けてありますから、それをみれば簡単にわかったはずです。)。
これらの弁護士が即独の方ばかりかというと、そうでもないのかも知れませんが、これは、もはやOJT以前の問題であって、弁護士としての基本的資質を疑いたくなります。このような方々を弁護士として認めることが果たしていいことなのかということは大いに疑問です。法科大学院という制度を経た法曹養成制度には根本的な欠陥があるのではないかと思えてなりません。法科大学院でも、卒業生がどのような仕事をしているのか、ぜひリサーチしていただき、そのリサーチを踏まえた上で、できれば即独も可能となるほどの実力を持った法律家の卵を養成して、司法修習に送り出すというぐらいの学習指導体制を構築していただきたいと思います。
もし、そんなことはできないというのであれば、法科大学院には、法曹養成の現場から退いていただくしかないと思います。