医療過誤訴訟について
1.はじめに
当事務所では、医療過誤訴訟も数多く手がけています。医療過誤訴訟は、患者側から病院側に事故の責任を追及する訴訟ですが、当事務所では、患者側に立った訴訟だけを取り扱っています。
2.医療過誤訴訟の特徴
通常の訴訟は、原告つまり訴えた側が勝訴する確率が高いと言われています。それは、訴訟の費用などを考えると、勝訴の可能性を検討してから訴訟を提起することが多いためであって、負けるのがわかっている訴訟を提起する人は少ないということによるものと思われます。ところが、医療過誤訴訟では、原告、つまり患者側が勝訴する確率は3割に満たないと言われています。これは、医療訴訟が専門的な知識が必要な訴訟であることに加えて、カルテなど重要な証拠が医者側だけにあること、患者側に立って問題点を指摘する医師は少ないこと、医師の過失としても、結果責任ではなくて、やるだけのことをやったかどうかということが問われるに止まるということによります。また、医療過誤訴訟は、経費も相当かかります。これは、そもそも死亡事故などが多く訴額が高くなりがちであるということに加えて、レントゲン写真など証拠作成に相当な経費がかかる上、鑑定など専門家の意見を求めることが多く、その経費も別途かかること、必然的に時間がかかることから、弁護士費用も一般訴訟事件と比較すると高くなることによります。従って、医療過誤訴訟を提起するかどうかは、患者側にも慎重な判断が要求されるということに留意して下さい
3.医療過誤訴訟の流れ
通常、医療過誤訴訟では、カルテの確保を行うことから開始されます。カルテは、最も重要な証拠ですが、これが病院側によって改ざんされたりすることを防ぐことと、患者側に立った医師に医療上の問題点を検討してもらうためには、カルテが確保されていることが必要不可欠になるためです。
このカルテを確保する手続は、法的には証拠保全手続と言われます。これは、一種の証拠調手続なのですが、訴訟を提起していなくても、行うことができるのです。通常、証拠が改ざんされるおそれがある場合に認められるのですが、ほとんどの裁判所は、改ざんのおそれについて厳しい立証を要求することはなく、患者側が医療事故のおそれがあることを証拠などである程度明らかにすれば、保全命令を出してくれます。
その後は、カルテ等の分析と患者側に立った医師による検討などを経て、訴訟を提起するか、あるいは、示談交渉等を行うかという手続の選定となります。場合によっては、医師や病院に責任を問うことは難しいということで、証拠保全だけで終わることもあります。
訴訟を提起する前に調停を行うこともあります。調停は、話し合いの制度であり、白黒をつけるような制度ではありません。病院側の意見も検討した上でないと、訴訟を提起するかどうかの判断が難しいような場合には、調停を経てから訴訟を提起するということもあるのです。
訴訟となった場合には、各種証拠を提出した上で、書面のやりとりで問題点を明らかにした上で、証人や鑑定人を調べてもらって、判決をいただくということとなります。その間に和解の試みがあったりすることもありますから、解決までは通常3年ぐらいかかると思われた方がよろしいでしょう。
なお、訴訟に至った場合、病院側は、最近では保険会社の顧問弁護士が代理人となることが多いようです。
著 白浜徹朗