競売物件購入のチェックポイント
最近のデフレ経済は、政策として実施された不動産価格の下落に主な原因があります。バブル経済を意図的に急崩壊させた結果として、大半の企業のバランスシートが厳しくなり、設備投資なども消極的にならざるを得なくなり、不況が長期化してしまいました。この結果、担保割れ物件が急増し、不況の長期化が追い打ちとなって、返済に窮した債務者が、競売によって不動産を手放すということが多くなっているわけです。バブル経済到来前と比較しても、競売事件数は飛躍的に増加しており、競売は市民にとって身近なものとなってきているようです(但し、これは、社会自身が病んでいるということであって、あまり好ましい状況ではありません。)。でも、いくら身近になったとはいえ、競売物件には素人が手をだしてこなかったというのは事実です。今でもそうなのでしょうか。私たちが、競売物件を購入するにあたっては、どんなことを注意しなければならないのでしょうか。以下、簡単に、チェックポイントをまとめてみました。
1.競売の流れ
① どんな物件が競売となるのか
競売をわかりやすく言えば、お金を支払わない人に対して、国が強制的に物を売却してその代金をもって、債務の弁済に充てる制度であると言えます。
競売には、大まかに言って3種類のものがあります。一つは、抵当権などの担保権が設定された物について担保権に基づいて行われる場合であり、競売事例のほとんどはこれです。もう一つは、判決などお金を支払えとの裁判に従わない人に対して行われる場合ですが、これは一般債権に基づく差押と言われます。担保権が設定されている場合、剰余がないと配当を受けることができないので(担保債権額を上回るほどの不動産価格がなければ、配当にはなりません。)、最近のように担保割れ物件がほとんどという状況の下では、競落ということまで行き着く事例は少なくなっています。もう一つは、共有物件の競売など、売主側が任意に合意して売却することができないような場合に行われる競売です。このような事例はほとんどみかけることはありません。従って、素人の方が競売を考える場合には、担保権に基づいての競売を念頭におけば足りることとなります。
このように、競売はお金を払わない人に対して行われるものですから、逆に言えば、順調にお金が支払われているような場合には、競売になることはありません。また、お金が払えなくなった人も、通常は、物を売却して返済に充てようとします。結局のところ、競売に至る事例は、担保権者との話ができないまま、任意に売却することもできずに、競売にまで行き着いてしまったという事例がほとんどということになります。事件物と言われるゆえんであり、ここに競売の難しさがあります。
② 競売に至る通常の流れ
競売・競落に至る事例のほとんどは、以下のような経緯をたどります。
- 支払の遅れ
- 金融機関からの督促
- 返済交渉
- 任意売却交渉
- 交渉の決裂
- 抵当権実行通知の発送
- 裁判所への競売申立
- 競売開始決定
- 裁判所による現況調査
- 評価額の決定
- 最低価格の決定
- 入札期日の決定と公示
- 入札
- 開札
- 競落許可決定
このうち、1から7までの間には、相当な期間が費やされるのが普通です。また、8に至った後にも、任意売却交渉は続けられます。開札直前に任意売却が成立することもあります。従って、15まで至る事例は、例外的な事例であるということがわかります。
③ 問題事例
競売は、債務者の意思に反して物を取り上げるという性質を有しているために、債務者側が抵抗することがよくあります。このため、占有屋などの第三者の介入とか、場合によっては、自殺や放火など不動産の棄損行為などもありますし、競落しても、任意に退去しないで、最終的に強制執行をせねばならなくなる事例も少なくありません。逆に、債権者へのいやがらせや他人名義での競落をねらって建物の価値を下げようとして、内容虚偽の賃貸借契約書を作成するということもあります。競売への参加のポイントは、これらのリスクを正しく認識しておくことに尽きるということになります。
2.競売物件チェックのポイント
① 情報の入手
まずは、どのような物件があるのか、情報を入手する作業から始めることになります。
最近では、インターネットで情報が開示されています。
公式なサイトは、BIT(http://bit.sikkou.jp/)ですが、一部の裁判所にしか導入できていません。京都は対象外となっています。この他にも、私的なサイトがあります。例えば、at home web(http://www.athome.co.jp/)などです。
これらの情報から、興味のある物件を探すことがまず第一歩ということになります。
3.落とし穴
① 情報不足
競売は、任意売却の場合と異なり、基本的には、物件を内覧できないために、詳細が確認できないことが最大のネックです(⇔任意売却の場合は、業者が所有者と詳細について確認し、重要事項として説明が行われる。)。この点については、新しい制度ができているので、活用するべきでしょうが、実際どこまでできるのかは、まだまだ未知数です。また、内覧ができたとしても、所有者は、競売に非協力的であるということに注意を要します。
時期的にみても、他者よりも早期に情報が入手できないという点も、競売参加者の不利な点です。任意売却交渉等が行われている場合には、任意売却交渉に関わった人々よりも、情報入手の点で遅れているということは自覚しておく必要があります。要するに、なぜ競売に至ったのかを推理しておくべきだということです。また、幸運にも、一般公示前に競売情報を入手できたような場合には、登記簿謄本ぐらいは入手してチェックすることも必要でしょう。
② 裁判所評価の限界
裁判所の評価は、不動産鑑定を前提としたものですが、これは、机上の計算という側面があることは否めません。競売に参加しようとする物件については、自分の目で確かめ、正常な取引事例との比較対照がどうしても必要です。
③ 妨害の可能性
第三者が介入しているような物件は、手をつけない方が安心です。特に、テナント物件は、慎重にも慎重な対応が必要となります。家主たる債務者と店子である賃借人が通謀してることすらあり得ます。
④ 問題事例
- 別会社が賃借しているとして、債務者側が執行停止をとってきた事例
- 内容虚偽の賃貸借契約書を作成し裁判所に提出し、法外な敷金を要求してきた事例
- 債務者の自殺
- 膨大な残置物
- 車庫を第三者名義で建物として登記
⑤ 瑕疵担保責任
通常の売買であれば、建物にシロアリがいたとか、土壌が汚染されていたとか、見た目ではわからない欠陥があった場合には、瑕疵担保責任として、売主に責任追及することが可能ですが、競売は、この点が期待できません。裁判所による現況調査に問題があった場合には、国家賠償請求が認められる場合もありますが、事例としては例外的な場合に限られています。この点でも、競売物件はリスクの大きな物件であるということが言えます。
⑥ 転ばぬ先のつえ
弁護士などの専門家(競売のことはあまり知らないという弁護士の方が多いので、競売にある程度の知識を有している弁護士が望ましい)、不動産仲介業者などに相談しながら、参加した方が無難です。また、情報を入手しようとした場合には逆に自分の情報が流れることもあるということには注意された方がよろしいでしょう。この観点からは、第三者に依頼して調査するという処理も一考に値します。
⑦ 任意売却
どうしても入手したいという物件については、任意売却による買取を試みるという方法もあります。これは、買受人が現れるまでに取下をする必要があります。つまり、開札期日までに関係者の間で話をまとめて決済を行い、なおかつ、競売を取り下げてもらう必要があります。
⑧ 私見
全くの個人的な見解ですが、競売物件は、余剰資産としてなら競売だけをねらってということでもいいかも知れませんが、自宅など一生に関わる買い物ということであれば、物件供給先の一つとしてみるぐらいの余裕をもって臨まれた方がよろしいかと思います。
著 白浜徹朗