2008 春号 vol.4 白浜法律事務所報
陽春のご挨拶
うららかな季節を迎え、新しい年度の始まりに際し、事務所報第4号をお届けいたします。
今年は、当白浜法律事務所が丸太町に移って5年となりました。
これからも、皆様に親しみやすく、頼りがいのある法律事務所を目指して邁進して参ります。
ちりとてちん
弁護士 白浜徹朗
ちりとてちんは、落語のお題の一つで、NHKの朝ドラのタイトルです。このドラマでは、落語の一門の師弟関係が描かれていますが、弁護士の世界でも、一門と言われる師匠と弟子の関係のようなところがありまして、証人尋問技術とか、法律相談のつぼ、交渉に臨むコツや注意点など、仕事の中で厳しくたたき込まれて育てられるものなのです。
私も、勤務弁護士という弟子と対話をしながら、事件の見極めについて議論し、起案の方向性を示した上で、できあがってきた起案を添削したり、勤務弁護士の相談や電話での応対にも口をはさみながら、仕事をしています。1人でやっているときよりも、自信を持って文章を書けるので、私としても助かっています。また、勤務弁護士がじっくり事件に取り組むことで、弁護士が1人で時間に追われて仕事をしているよりも、丁寧な仕事にもなっているようにも思っています。
でも、勤務弁護士からすれば、結構大変な毎日だろうと思います。所長から、「あれはどこまで進んだのか、起案はできたか。書面をみせろ。」と厳しく催促を受けたかと思えば、自分で書面を打っている途中でも、「この法律論をどう思う。」などと聞かれたりするわけで、気を抜く暇はありません。師匠たる私としては、早めに弟子に起案をしてもらって、その起案を自分でもチェックをして、議論をして、いい書面に作り上げたいと思っているわけで、早く書面をみたくなるわけです。書面は、弁護士が職人として作り上げた作品のようなものですし、原稿が早くできると、お客様にも検討してもらう時間ができます。ですから、弁護士として早めに書面を書き上げる癖をつけるように指導することは、師匠として大切なことだと思っています。私自身がまだまだ時間ぎりぎりになることが多いので、そんな癖から弟子には脱却してもらいたいという願望もあります。勤務弁護士に色々と法律上の議論をふっかけるのは、思いこみで間違ってしまうようなことにならないように自分で考える癖をつけてもらおうというねらいもあります。師匠としては、自分の考えにミスがないか確認しながら仕事をしつつ、勤務弁護士にも常に考える癖をつけてもらうとともに、最新の法的知識を勤務弁護士から吸収するわけです。もちろん、亀の甲より年の功という言葉があるように、経験を伝えることも大事ですから、先輩弁護士としての経験談もことある毎に伝えるようにしています。
ちなみに、ちりとてちんでは、落語家が他の一門のお弟子さんに稽古をつけてもらうことがあるということが紹介されていました。弁護士の世界でも、他の弁護士と一緒に仕事をして鍛えてもらうということがあります。共同受任事件とか、集団訴訟とか弁護団事件というものです。我が白浜事務所では、これらの集団事件には、積極的に参加すべしということにしています。そうしないと、最新の弁護技術や法知識が身につかないからです。所長である私自らも参加することもありますが、このような活動を通じて、事務所全体のスキルアップを図っておりますので、ご理解下さい。
ドラマのちりとてちんでは、5人の弟子のそれぞれに個性があり、その個性をうまく伸ばしていく師弟関係が描かれていました。私も、努力はしていますが、ドラマのように人をうまく育てることはできていないかも知れません。このドラマの中で、「師匠が大事に思っていることは、お弟子さんの中でりっぱに育っていますよ。」という言葉に感じるところがありました。私も、将来、そんなことを言われるように、後輩を育ててゆきたいと思っております。
それでは、おあとがよろしいようで。
韓国に行ってきました!
弁護士 遠山大輔
1月末、日弁連視察団のメンバーとして、韓国(ソウル)を訪問しました。4日間の日程で、地方裁判所、検察庁、警察署、弁護士会、保護観察所、保険会社(保釈金保証保険)を視察してきました。私にとっては初めての韓国訪問でした。食事がおいしく、キムチを毎食おかわりしました。九州出身の私としては、自分のルーツを感じずにはいられませんでした。
今回の視察の目的は、韓国で実践されている「取調べの可視化」「身柄不拘束の原則」「社会奉仕命令制度」についての調査でした。「取調べの可視化」とは、被疑者や参考人の取調べを録音・録画して、取調べの適正化を図り、かつ取調べの様子を裁判でも検証できるようにする制度です。実施状況についての詳しい説明を受け、検察・警察とも積極的に取り組んでいることが実感できました。「身柄不拘束の原則」は、可能な限り被告人の身柄を拘束しないで捜査、裁判を行おうというものです。勾留されたまま裁判を受ける被告人の数が、10年で3分の1になったと聞き、驚きました。保釈金についても、1%以下の手数料を支払えば保険会社と保証保険契約を締結できるそうです。保釈金を現実に納めないといけない日本の現状とは、雲泥の差があると感じました。「社会奉仕命令」というのは、執行猶予の条件として、老人施設や障害者施設などで作業をさせる制度です。実刑判決と執行猶予判決の中間的処分として、日本に導入しても有効だと思います。
韓国の法制は、日本のものを参考に作られながら、さらに良い方策を求めて積極的に法改正を進めていました。他の国を知ると、日本のことが再認識できます。大学生のころは、「比較法」の重要性を授業で説明されても分かりませんでしたが、今回の訪問では本当によく理解できました。まさに「他山の石」です。結局のところ、日本の刑事手続(あるいは人権感覚)は、韓国と比べると数十年置いて行かれていると感じました。「可視化」を始め、早急に改革を進める必要があると思います。
韓国では陪審裁判も試験導入されました。日本でも裁判員裁判が始まることですし、また近いうちに視察できればと思います。
この原稿を書いているのは2月ですが、3月にはシドニーに「可視化」「陪審裁判」の視察に行きます。韓国と同じように、いろんな法律家の知恵を持って帰りたいと思います。
発信者情報を開示する
弁護士 山 口智
「今日、○○小学校を爆破する。」「○○を殺す。」といった内容をインターネット上の掲示板へ書き込んで、逮捕されたといった事件を最近よく耳にすると思います。インターネット上の掲示板に返信(一般的に、「レス」と呼ばれている。)した人をどうやって特定するのかということについては意外に知られていませんので、私が得た知識をお教えします。
私人が発言者を特定しようとする場合、いくつかのハードルがあります。発言者を特定するには、まずはその掲示板の管理者に対してIPアドレス(番号のようなものですが、これは、インターネット上の住所のようなものです。)を開示させる必要があります。このIPアドレスを開示させるためには、これまでは、個人情報の関係で、裁判所の力を借りることが一般的でした。もっとも、裁判所によって、IPアドレスを開示せよといった判断が示された場合であっても、掲示板の管理者がこれに応じなければ、IPアドレスを知ることができません。
仮に、IPアドレスを開示してもらうことに成功したとします。その場合、そこから何が分かるかと言えば、経由プロバイダ名(インターネットに接続するためのサービスを提供する企業あるいは団体)が判明します。そうしたら、そのプロバイダに対してIPアドレスから、発言者の情報等を開示せよといった判断を示すように裁判所に申し立てなければなりません。この場合も、そのような判断が出たとしても、プロバイダがこれに応じなければ強制することは難しいです。さらに、ここでは、情報が消えてしまうと言う危険性も存在しております。プロバイダの種類にもよりますが、発言者の情報は、一般的に3ヶ月から半年程度で消えてしまうことが多いようです。そこで、プロバイダに対して、発言者の情報を消さないように、情報の保存を求める必要もあるのです。
このようにして、ようやく、発言者を特定することができるのです。これを警察等国家権力が行おうとすれば、令状の発付等によって、上記の過程をわずか数日のうちに行うことができるので、力の差が大きいことを実感します。いずれにしても、匿名性が売りの掲示板でも発言者は特定し得るのです。特定された場合、刑事処分や損害賠償請求等をされる可能性があります。ですから、匿名で発言していても、発言したことが突き止められることがあるわけですから、発言内容にはくれぐれもご注意下さい。
私道の自動車通行について
弁護士 拝野厚志
先日、不動産鑑定士と弁護士との合同の勉強会があり、僭越ながら、私が講師として「建築基準法上の道路と通行権」について発表させていただきました。この発表を通じて、私自身も勉強させていただき、2項道路や位置指定道路の関係については相当詳しくなりました。
道路指定され、自動車が通行可能な道路幅があれば、皆さん当然に自動車で通行できると考えられることと思います。
しかし、判例を調べてみると、自動車の通行が十分可能な幅のある道路でも自動車による通行を否定しているものが、意外と多いのです。
車が十分通れる2項道路や位置指定道路であっても、これまで車が通ったことがない道路にはほぼ自動車通行は認められません。また、自動車が通行していたとしても自家用車以外の工事車両の通行となると否定的です。しかし、これでは、建築基準法上は建築可能とされているにもかかわらず、工事車両は入ることができず、実際上は建築が不可能な土地になってしまうという困った事態が生じてしまいます。従いまして、道路に接道しているからというだけで安心されることなく、道路の利用状況をよく確認してから、購入することが重要となります。 最も驚かされたのは、裁判所は、通行の自由は権利ではなく、道路指定されたことによる「反射的利益」としてとらえていることです。平たく言えば、お上が設定したことのおこぼれに預かっているにすぎないといったところとなりましょうか。
しかし、このような判例の立場は疑問です。人によって車で通行できたりできなかったりするなど社会常識に反しているだけでなく、今日、避難経路や緊急車両の通行の確保など安全な住環境の確保が強く求められているという社会的要請にも反しています。時代の後追いでなく、立法動向や時代の要請を反映させた判決こそが求められているのに、まさにこれらの判決は逆行する形となっています。そのような政策形成は立法の仕事と割り切るのもひとつの立場かとは思いますが、健全な政策形成は司法の場においても求められていると思います。また、弁護士も社会の動きを鋭敏に感じ取り、行政や一般市民の常識を裁判所に理解してもらう努力をすることも重要であると痛感しております。
破産管財という業務
事務長 田村彰吾
法律事務所の業務の中に破産管財事件というものがあります。これは、破産手続が開始した会社などの清算を請け負う業務で、その破産した会社と全く関係のない弁護士を、裁判所が指名して選任します。いわば裁判所からの受任事件と言うことになります。
破産管財人に就任しますと、その会社の全ての権限があたえられ、裁判所の監督の下、会社を解体し、整理します。具体的に言えば、売掛金の回収や預かり品の返還、従業員の解雇、税務申告、本社屋の売却又は退去、果ては事務用机や椅子まで売り払って、資産を処分し、権利関係を整理し、債権者に配当するための換価作業を行います。言うなれば、一人で会社をやっていくようなものです。しかも、事業をたたむ作業ですので、余り気持ちの良いものではありません。
裁判所は、このような業務を破産会社の規模や就任予定の弁護士の経験に応じて割り当ててくるのですが、近年、当所には比較的大きな規模の破産管財事件が回ってくるようになりました。過去の年商が数億円、従業員数で言えば100名前後ですから、世間で言うところの中小企業でしょうか。このような会社の清算をさせていただくのですが、現在、白浜が管財人に就任している会社が3社もあります。まだまだ規模の小さい当所が年商数億円もの企業3社を切り盛りしているのですから、はっきり言って資料を見るだけでも、気が遠くなるような作業です。にもかかわらず、資産を隠されていないか、不正が行われていないかなど、様々な調査もしなければなりません。時には、潰れた会社になんか代金を支払いたくないと無理を言う業者さんに、破産制度を説明し、支払いをしてもらわなければなりません。何とも頭の痛い業務です。
しかし、この業務にも救われることがあります。退職を余儀なくされた従業員さんに、給与を払うことができたときなどに喜んでいただけることがあったりするからです。倒産間際の企業は、得てして従業員さんをないがしろにしてしまいがちです。そんな状況で、当所が関与することで、正しく退職手続が行われ、未払の給料もいろいろな制度で補填されたりすることがあります。「満足」とまでは行かなくても、「なんかすっきりした」とおっしゃっていただければ、何よりの救いです。
そんな小さな誇りを感じつつ、私は今日も管財業務をサポートしています。