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司法試験に合格しても弁護士になれるとは限らない

  • 欧米諸国と比較すると、日本の弁護士の数は不足しているということが、学者などから言われることがある。ただ、これにはマジックがあり、欧米には存在しない職種である税理士とか司法書士、行政書士などの法律専門職の数が弁護士数に含まれていないのである。
     
  • 日本では、紛争となった場合には弁護士に相談し、日常的な業務に関するような法的処理は、司法書士や税理士に依頼して処理するという言わば棲み分けが行われているのであるが、そのような社会的実態を考慮することなく、単純な数の比較だけをもって、弁護士が不足しているという話になってしまう。そして、弁護士の数をもっと増やして、弁護士を市場原理で淘汰するべきであるなどとも言われる。特に、ロースクールなるものが登場してからは、弁護士数を増加させるべきであるという声は日に日に大きくなっているようである。ロースクールに合格すれば、そのほとんどが弁護士になれるかのような話が広く出回っていたことから、法学部の人気が過熱した時期もあったようである。この話を受けて、社会人の中にも、弁護士資格を得ようとロースクールに走った人も多いと聞いている。
     
  • しかしながら、現実はどうだろうか。実は、極めて厳しいのが現状である。現に、今年の司法修習修了者には、司法修習は終えたが就職できなかった人がかなりの数発生しているのである。
     
  • つまり、58期(平成16年春より修習)の今秋(平成17年秋)の就職者は、弁護士が911名(うち女性が204名)、裁判官が124名(女性34名)、検察官が96名(女性19名)となっているので、法曹となった人の合計は1,131名(男性874名、女性257名)ということになる。しかしながら、司法修習の最終試験である2回試験の合格者は1,158名ということなので、計算上は、27名が法曹にはならなかったということになる。ちなみに、58期は、合格留保が31名、不合格が1名なので、平成17年の秋に就職しなかった人は、60名近くになっているわけである。
     
  • つまり、せっかく難関の司法試験に合格して厳しい修習を終えた後でも就職できるとは限らないというのが、平成17年の司法修習生の現実なのである。しかも、上記の数字は、司法試験合格者1200人時代における数字である。合格者1500名の59期生の就職(平成18年秋)にはさらに困難が伴うことは必至であり、実際、弁護士の中では、59期生の採用枠が大きく増えることはないので、59期生の就職はかなり厳しいのではないかと危惧されているようである。
     
  • では、今年から新司法試験の合格者を輩出するはずのロースクールの場合どうなるのであろうか。ロースクールの第1期生は、途中で旧司法試験に合格した人もかなりいたようなので、卒業生は入学時点よりは少ないのではないかと予想されるものの、彼らが新司法試験に合格し修習を終えて実際に就職する頃にはどうなるかというと、実は、59期生や60期生の就職よりさらに厳しくなることは必至である。なぜなら、ロースクール第1期生は、最後の旧司法試験組である60期の修習生(平成19年秋就職)が1500名就職活動をするのとほぼ同時期に就職先を確保する(ロースクール第1期生は修習期間が短縮され、平成18年秋より約1年の予定で司法修習を行う。)ということになるからである。このため、ロースクールを卒業し司法修習も終えたが就職はないという人たちが大量に出現する可能性があり、これが法曹界における2007年問題と言われているのが実情なのである。法曹界以外では、2007年問題というのは、団塊の世代が大量に定年を迎えて、大卒の新人確保が厳しくなるという労働力受給のアンバランスを指しているようであるが、法曹界だけは逆の意味で使われているというのは何とも皮肉なことである。そして、この第1期生で新司法試験に合格できなかった人が、翌年も試験を目指すとなれば、第2期生以降も試験合格は厳しくなるということになる上、試験合格後も、就職できなかった新司法修習生たちと就職も競わねばならないということになるわけである。
     
  • ただ、これまでのように、試験に合格すれば就職できるというような状態が正しいかと言えばそうではないことは確かであろう。弁護士が資格さえあれば食っていけるようなことではおかしいと思う。しかし、司法試験のような過酷な試験で、しかも、若い人たちが何年も修習という修行期間を経たにも関わらず就職できない人が大量に現れるということが正しいことであるとは私には思えない。修習には国家予算も使われている。ロースクールもしかりである。無駄が許されていいはずもない。そして、このロースクールや司法修習での研修は、国民の人権に直結することであるから、もったいないなら削ればいいというものでもない。大事な予算なのである。そんな貴重な予算を費やして、法曹にならない人を育てることが正しいことであるとは思えない。医師の場合、国家試験に合格しても医者にならないというような人は大量には存在していないはずであり、法曹資格者だけは何百人もの法曹にならない有資格者が出現するというようなことでいいのだろうか。
     
  • では、弁護士事務所に就職できないのであれば、最初から独立して開業したらいいかというと、そんな弁護士を国民が望んでいるとも思えない。これまで、弁護士は、先輩弁護士の指導の下で、研鑽を積んで仕事にあたってきたのであり、そのような裏付なしに独立開業する人を増やした場合に迷惑を被るのは国民であろう。また、実際のところ、最初から独立して仕事ができるほどの弁護士に対する社会的需要はないのが現状である。もめ事に巻き込まれた人たちが弁護士に費用を支払うということは大変なことであり、弁護士には「市場」開拓という言葉はあまりピンと来ないのが現実である。本来、弁護士は儲けるための仕事ではないし、儲かる仕事でもないということは忘れられてはならない
     
  • なぜ私がこんなことを書いているかと言うと、私は、修習生の就職活動のお世話をすることが多い弁護士の一人であると思うが、身近にみていても、最近の就職活動は本当に大変だからである。そして、実際の数値としても、平成17年になって、合格者1200名時代であってさえ20名を超える就職先不明者が出現したのである。この事態がさらに300名も合格者の多い来年度以降どのように推移するかは、極めて厳しいということを私は実感している。しかるに、私には、この現状が、実際にロースクールを目指そうとしている人たちに正しく伝わっていないように思われてならない。だからこそ、実際に修習生を身近にみている弁護士から実態を知らせる必要があると考えたのである。
     
  • 机の上だけで法曹人口論を唱える人たちは、この問題が若者の人生に深く関わる問題であるということを考えてみてほしいと思う。とにかく沢山合格させればいいというわけではないはずである。何年もかかって合格して喜んで研修を積んだものの、実際には就職ができない若者が大量に出現するようなことが果たしていいことなのだろうか。そのときには、他の就職の道は閉ざされているかも知れないのである。安易な合格者増員論に警鐘を鳴らす意味で、本稿にて修習生の就職実態の一面をお知らせした次第である。
     
著 白浜徹朗
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