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不良債権再考論

~ 不良債権処理を再考すべきでは ~
  •  最近、不良債権処理が必要であるとの声をよく耳にする。しかしながら、企業の再建や法的清算に取り組むことのある弁護士としては、不良債権処理の加速化に疑問を感じることがある。特に、一体「不良債権」とは何かという点、すなわち、「不良債権」とそうでない債権が、一体どのような基準で線引きされるのかということを再検討しない限り、健全な企業やまじめに再建に取り組んでいるような企業も、「淘汰」されてしまうことにならないかということを危惧するのである。
     
  •  そもそも企業活動に伴って利益が発生したとして、それをそっくりそのまま利益として計上するような企業は、ほとんどない。企業は、利益を再投資したり、新たな融資を加えて、施設や設備に投資したりするわけである。そうしないと、納税額が増えるだけのことである。結果として、ほとんどの企業は、金融機関からの借入を抱えていることになる。そして、これに対応する資産として、最も重要な価値を有していたのが不動産であった。つまり、大抵の企業は、不動産と金融負債を抱えていたわけである。ところが、バブル経済の崩壊と不動産価格の急落の結果(特に後者は、総量規制や土地保有税制という国策によって人為的に作出されたものであるが)、ほとんどの企業が、その資産価値以上の金融負債を抱えるようになっている。しかも、不動産価値の下落は、今も続いている。この結果、資産の実質的価値よりも金融負債額が大きくなっている企業がどんどん増えていることになる。
     
  •  このため、「不良債権」というものを、不動産等で担保されている価値よりも債権額が大きなものという単純な基準で判定するということとなると、日本のほとんどの企業が不良債権を抱えていることになる可能性がでてくるわけである。中小企業の経営者が、不良債権処理という言葉に怯えに近い感情を持つのも、このためである。
     
  •  また、施設の購入や建設などの不動産投資は、設備投資の中でも投資額が大きく、即効性もあるものである。ところが、不動産価値が下落し続けている限り、不動産への投資に企業は慎重にならざるを得ない。結果的に、不動産投資は、低調なままであり、需要は伸びないこととなる。他方、不良債権処理が進むにつれて、「処理」すなわち売却される不動産は増えるから、供給は増える。ますます不動産価値は下がってゆくこととなる。
     
  •  したがって、デフレスパイラルから抜け出すためには、不良債権処理というお題目によって、不動産の処分だけが急がれるようなことを抑制する必要がある。特に、「不良債権」の判定として、不動産の価値と債権額との比較だけを重視するようなことはしてはならないのである。
     
  •  この点、弁護士として、企業再建を検討するに際して、最も重視することは、本業が回転し、利益がでているかどうかということである。つまり、いわゆるキャッシュフローの重視である。なぜなら、法的な再建手続によって不動産等が処分されないということになれば、収益がでている限り、企業は存続することができ、再建が可能となってくるからである。
     
  •  ところが、国策によって作出されたRCC(株式会社整理回収機構)では、国民の二次負担を回避するという命題の下、5年以内の回収が基本とされている。このため、中小企業の経営者としては、一度RCCに送られたら、5年以内に返済できない限り、企業としては清算されるという不安感に追われることとなっている。いかに企業努力をしようとも、不動産価値が下落し続け、設備投資も伸びない不況下において、5年以内の返済などは不可能である。民事再生法ですら10年という期限設定をしている中、5年内の再建という原則は、あまりに厳しいものと言わざるを得ない。ところが、回収を急ぐ姿勢は、RCCだけではなく、不良債権処理競争に追われている大多数の金融機関も同様の状況となっている。金融機関は融資よりも回収に力点を置いていると思われるほどである。このため、企業努力をしつつも、清算に追い込まれる企業が増えているように思えてならない。なお、最近では、RCCも企業再建ということを重視しているようであるし、過酷な取立は行わないということを明言して、企業の再建に努力しているということであるが、私としては、なおいっそうの努力を期待したいと思っている。
     
  •  不健全な企業は清算すべきであるなどという声もよく耳にするが、倒産処理は、連鎖倒産とか失業者も増やすという側面があることが見過ごされているように思える。中小企業の経営者はそのほとんどが企業の連帯保証人であるから、企業の倒産に伴って、一家離散に追い込まれることも少なくない。清算こそが唯一の解決ではないということを忘れてはならない。
     
  •  先日、私が所属している京都弁護士会では、RCCに対して、5年以内の回収というテーゼにこだわらず、過酷な回収とならないようにしてほしいとの要望を行った。全国で初めての提案であるが、私は、個人的には、日本経済の再建にとっても、示唆に富んだ提案であると考えている。5年では返済できないが、10年、あるいは、20年というスパンであれば、返済可能な企業は沢山あるように思う。そういう企業が再建できるようにしてもらいたい。また、そうすることが、現在の日本経済には、必要なことであると思う。私としては、行政当局が不良債権処理について政策立案されるに際して、京都弁護士会の提案をぜひご一考いただきたく、会員の一人として、ご提案する次第である。
     
著 白浜徹朗
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