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法律のすき間(新聞寄稿)

法律のすき間 
  • 規制緩和が叫ばれている。でも、法律、特に刑罰に関連した法律には細かな類型がなく、包括的なものが多い。例えば、世間一般では万引きと空き巣は全く別の犯罪だが、法的には「窃盗」と、一まとめにされてしまう。
     
  • 細かな規定がないと、法律のすき間を狙った犯罪的な行為をする者が出てくる。例えば中古車の走行距離メーターを巻き戻す行為。外国ではそれ自体が犯罪となるらしいが、日本では犯罪とならない。メーターを巻き戻した中古車は詐欺商売に使われることが明らかだから、巻き戻し行為自体を法律で禁じれば、詐欺被害を予防できる。捜査機関としても立件が容易になるはずだが、詐欺は準備・計画しただけでは犯罪にならないので、警察は動けない。
     雪印食品のラベル偽造問題についても、偽造行為自体を犯罪として重く処罰できるようにしておくべきだった。日本の刑法では微罪に過ぎないため警察も動きにくく、結果として詐欺行為を抑止できなかったわけである。
    このような法律のすき間を埋めるためには、市民が訴訟を起こし、世論を喚起して新法を作るよう求めるしかない。公害訴訟や薬害訴訟がその典型だ。
     
  • 私は似たような事件として、ゴルフ場のボールの飛来、照明光の照射による光害訴訟を担当した経験がある。
     ゴルフ練習場から民家にボールが飛んでくれば、場合によっては人命にかかわる大変危険な事故を招きかねない。ライトの照射もしかり。車のアップライトに照らされ、前が見えなくなった経験のある人は多いと思うが、ゴルフ場のライトは車のライトの何十倍も明るい。そんなライトで早朝や深夜、家の中を照射されれば、安眠できるはずがない。ところが、こうした行為を明確に禁止した法律がないため、民事裁判でその禁止を求めるしかなかった。
     
  • 住民側は、硬く危険な試合球の使用、深夜早朝の営業、光の照射をいずれも禁止するよう求める裁判を起こし、いったんはこれを認める保全決定が出た。ところが、練習場側の不服申立を審理した別の裁判官は「雨戸を閉めるのが常識だ」などとして試合球使用と深夜営業を許可し、ライトは窓に直接光が当たらないようにさえすればよい、と決定を変更した。
     
  • 最初に出た決定の後で、練習場側がボールの飛来防止や、遮光シートの設置などの措置をとったことを考慮したのだろうが、万が一、ボールが飛び出たときのことを考えると、試合球の使用などとんでもないことだ。窓に直接光を照射しなければいいというのも、そこに人が住んでいることを無視した非常な決定としか思えなかった。
     幸い、ボールが当たってけがをした住民はいなかったが、、もし、けが人が出たとしても悪いのはゴルフ練習場であって、この裁判官が責任をとることはない。大阪高裁でもこの決定は維持されたから、これが裁判官の常識なのだろう。
     
  • この事件はボールの飛来やライト照射などの防止について、住民と練習場側が協定を結ぶことで和解した。結局、解決に導いたのは裁判ではなく、地域の安全と平穏を守ろうとした住民の熱意だったと思う。
     「制度の規制緩和」は必要だろうが、市民の安全にかかわる「すき間」があってはならない。裁判に訴える道があるとはいえ、それには大変な努力が必要になる。それに、必ずしも裁判官が市民の味方になってくれるとは限らないのだ。
     
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  • (注) 本稿は、朝日新聞 京都版「法廷メモランダム」(平成14年2月23日)に、掲載されたものです。
     
著 白浜徹朗
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