2012/05/22
新人弁護士の年収は異常な下落傾向に
弁護士が激増しても、競争による淘汰に任せればよいなどと気楽な発言をされる方がおられるようですが、今現実に起こっているのは、競争などではありません。競争は、同じ条件で行われる必要がありますが、新人弁護士は働く場所の確保すら難しい状態に置かれていますから、新規参入者たる新人弁護士は競争できるようなステージに立つことすらできないし、運良く立てたとしても、極めて不利な状況に置かれてしまっています。ベテラン弁護士が、新人との競争に負けてステージから敗退するというようなことは、机の上の議論であって、実際には格差が広がるばかりと言っても言い過ぎではないように思います。今の激増政策は、新規参入者いじめ以外の何物でもないと思うのです。
最も際立っているのが、新人弁護士の初任給の異常な下落です。
自由と正義の5月号は、新63期の就職状況に関する特集号ですが、これによれば、今や年収が500万円に満たない新人弁護士が急増していることがわかります。すなわち、年収が500万円以下の弁護士の割合は、以下のとおり、急上昇しています。このような急上昇は、他の業種ではみられないはずであり、その異常さは明らかだと思います。特に62期から63期にかけての変動は倍増に近い極めて異常な数値となっています。
59期 7.6%
現60期 14.8%
新60期 15.4%
現61期 24.0%
新61期 20.8%
現62期 25.2%
新62期 27.6%
現63期 47.6%
上の数値の並び方は、時間順になっていますので、わかりにくいかも知れません。少し説明しますと、新は基本的には法科大学院を卒業した人が多い期で、現は法科大学院の卒業生ではなく旧試験を受けた人が主に修習している期です。傾向が若干違いますから、以下のように整理した方がわかりやすいかも知れません。
59期 7.6% 現60期 14.8%
新60期 15.4% 現61期 24.0%
新61期 20.8% 現62期 25.2%
新62期 27.6% 現63期 47.6%
ちなみに、これは、500万円以下の総計です。300万円以下という人の割合は、新62期までは2%に満たないような数字だったものが、現63期は6.6%まで上昇していますし、300万円から400万円以下も13.1%となっているなど、年収500万円以下の人の中でも下の水準への移動が同時並行的に進んでいます。しかも、注意を要するのは、これが現63期、つまり2年前の数値ということです。需給バランスが完全に崩れている以上、1年毎に状況が悪化することになるのは、経済原理上の必然ですから、今年は更に状況は悪くなっていますし、同じような需給バランスが続く限り、来年は更に悪くなるということが続くことは必至です。
ところで、新63期からは、なぜか、統計の常識から外れたようなことが行われて、500万円以下という枠がなくなってしまったので、62期と63期以降との比較は難しくなってしまいました。新63期は、480万円以下という枠ができて、これの比率が全体で37.1%となっています。現63期の500万円以下が47.6%となっていることと比較すると、かなり改善されたように思われるかも知れませんが、現ではなく同じく新修習である新62期の27.6%と比較すると10ポイントの悪化ということになります。実際、私の周囲の話からすると、ノキ弁やノキ弁同様の給与で事務所に置いてもらう人がかなり増えてきているようですから、弁護士の初任給平均は、かなり悪化しているのではないかと思います。
例えば、年収単位で300万円台となると、大学院などいかずに大卒として企業に就職した方がましということになりますから、なぜ、時間や学費をかけて法科大学院で勉強しなければならないのだろうかということになってしまうのではないかと思います。法曹養成制度の破綻は誰の目からみても明らかになってきているのではないでしょうか。