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弁護士法人 白浜法律事務所

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コラム

裁判所放浪記

放浪する弁護士

私は、全国各地に事件がある。おそらく日本の弁護士の中でも、最も多くの裁判所を訪れた弁護士の一人だと思う。例えば、東は釧路地裁、西は佐世保支部(長崎)、南は知覧支部(鹿児島)、北は旭川地裁といった具合である。
裁判官が転勤で頻繁に交代するせいか、裁判所はどこでも同じ雰囲気をもっている側面があるのだが、反面、その地方独特の特色が出ているところもあって、出張していて面白い。例えば、札幌で証人尋問したら、私の尋問部分まで北海道弁になっていた(そんなことはないんでないの)ということもあった。こういう弁護士が東京や大阪ではなく京都にいるというのも面白いが、長谷川先生から、貴重な経験だから京都弁護士会報に投稿したらどうだという勧めがあったので、「裁判所放浪記」という題で寄稿してみようと思った次第である。
まずは、初回ということで(好評なら、続編を寄稿する予定である。)、裁判所への批判的視点をもった出張残酷物語から始めることにする。なお、これから紹介するエピソードは、あくまでも私が体験した主観的なものであって、今現在一般的に行われている取り扱いではないかも知れないということはご承知おきいただきたい。

早く来い!
東京地裁というところは、お上意識の強い裁判所らしく、「さすが東京地裁」というエピソードが多い。独立する前の話だが、東京地裁に手形訴訟を提起して、事務員が弁論期日を決めてもらおうとしたところ、書記官から、「弁論期日は午前10時しかないので、午前10時に指定する」と言われたとのことである。まだ「のぞみ」も走っていない時代である。私はびっくりして、地裁に電話をかけて、「午後にならないのか」と交渉してみた。書記官からは、「東京地裁手形部では午後は証人調べをすることになっているから、午後には弁論はしていない。との返答。「それでは、地方の弁護士は、宿泊せねばならないのではないか」と猛烈に抗議したのだが、開き入れてもらえなかった(※1)。

独り言:「東京以外に住んでいる人間が東京で訴訟を提起する場合には、東京の弁護士に依頼せよとのことなのだろうか。やはり前日から泊まって東京見物でもしているのだろうか。」

早い者勝ち!
これも独立する前の話だが、東京地裁で和解期日を午後4時に指定されて、時間前について出頭カードに署名し(※2)、ついでに他のカードを見回したところ、午後4時には3件の和解事件が指定されていた。
はて、これはどの事件が先なのかと思って書記官に聞くと、「早く当事者がそろった事件から開始します」とそっけない返事。
既に和解条項もできあがって合意済の状態だったので(印刷したものも用意してあった)、書記官にその旨伝えたが、「当部では、和解も早いもの順になっていますので」とあっさり。結局、相手方の先生が遅れて、私たちの和解事件が開始されたのは、午後4時50分。事件が終了したのは、55分。裁判官が、和解条項を見た上で、「これでいいですね。」と言っただけのことだった。

独り言:「遅刻した者に制裁を加えるような権限が裁判所にあるのだろうか、しかも、相手方の遅刻に対して何故に反対当事者が責任を問われなければならないのだろうか。一般市民の本人訴訟の場合、休暇をとったり早退したりして時間を都合して出頭している者もいるだろう。私のように遠方から来ている者にとって、帰宅時間が遅くなるのはつらいのだが、そのことをわかっているのだろうか。結局、裁判所は人が来てくれるところであって、裁判官は、座って待っているだけの人だから(弁護士は出歩くことが仕事であるが)、来庁者のことは考える余裕もないのだろうか。」

早く来たら損だ!
平成8年頃のことだが、仙台地裁本庁で午後1時10分と15分の2件の弁論期日を指定してもらったことがある。たまたま、そのときだけだったのかも知れないが(したがって、誤解があるかも知れないのだが)、私が12時45分に法廷の前に着いて、開廷を待っていたところ、午後1時を遇ぎても、法廷の扉には鍵がかかったままで中に入れない。当然ながら、出頭カードも書けない。5分になっても、まだ法廷は閉まったまま。いらいらして、私が法廷前の廊下を見回すと、私だけでなく出頭してきた当事者や代理人の弁護士が10人以上待たされている。廊下は10人ぐらいは座れる椅子が配置されているが、当然みんなが座れるわけはないから、ほとんどの人は法廷の前で立ちながら待っているわけである(※3)。
結局、扉が開いたのは、10分を過ぎた頃である。
私は、「別件の15分指定の事件に遅れてしまう、もっと早く法廷を開けてもらわないと困る」旨、廷吏さんに抗議したのだが、その廷吏さんは、ご丁寧にも私の順番を一番最後に回してくれるというご返礼。
私が、一番早くに来ていたのだが、10分を経過してからでないと中に入れないのだから、出頭した順番の確認はできないということだろう。結局このやり方だと、順番を決めるのは廷吏さんの気分次第ということになる(なお、相手方代理人の顔がわからない、他弁護士会の弁護士にとって、自分の相手方がいつ来て、それが何番目かはわからない。まして、本人訴訟の場合はなおさらである。)

追 記:先日(平成9年9月24日)、仙台地裁本庁に行ったら、廷吏さんは、相変わらず、午後1時を過ぎても、法廷に来ていなかった(1時10分きっかりに書記官と一緒に入ってきた。)但し、法廷の鍵は開いていた。廊下には机が置かれて、その机に出頭カードが並べられており、出頭者が自分で記入して、法廷内のカード入れの箱に入れるようになっていた。セルフサービスではあるが、多少改善されたようである。ただ、このカード入箱は、廷吏席の側に置いてあり(つまり、傍聴席と法廷を仕切る柵の内側にあるわけである。しかも、京都や大阪とは違い、廷吏席は裁判官席の横、つまり、法廷の最も奥の方にある。)、一般市民にはわからないと思う。実際、私もカードに記入さえすればよいだろうと思っていて(これは言い訳だが、ほとんどの裁判所がそうなっている。)この仕組みがわからず、結局、また、一番最後にされてしまった。なお、法廷の鍵は開いているのだから、警備の都合で、改訂時間を制限しているのではなかったことが確認された。また、出頭カードは、廊下に置かれたままで、誰も見張っていないので、誰かが持ち去っても分からないし、仮にそうなった場合は相当混乱すると思う。警備上もきわめて問題がある扱いである(例えば、有名人が関わった事件の場合、そのようなことが起こらないとは限らないだろう)。

独り言:「このような扱いをされても、弁護士なら、まだ対処の仕様があろう(但し、京都弁護士会なら、大きな問題となるだろうが)。しかしながら、本人訴訟や証人出廷などで、裁判所に初めて訪れたような、一般市民にとって、これほど不親切な対応はないだろう。『本当に、ここで間違いないのだろうか。場所が違うのではないか」などと思った人が、大勢いるだろう。出頭してきた人の中には、仕事を1日休んで来ている人もいるだろうが、かわいそうなことである。」

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※1
遠方から出張してくる弁護士だとわかると、通常の裁判所は、午前は無理ですねとか、午後1時で間に合いますかとか、配慮してくれるので、うれしい。開廷日についても、事件配属前に、事件係にお願いすれば、月曜日とか金曜日とか、都合のよい曜日に配属してくれる場合もある(但し、出張を利用した旅行のためなどという理由はよくない。あくまでも、仕事の都合でお願いするのが、最低限のマナーである。少なくとも、私は、そのように心がけている)。

※2
関西地区以外では(確か九州地区もそうだと思うが)、弁論期日や和解期日の際、出頭カードを記入する扱いとなっていることが多い。誰が出頭してきているのかを確認するのだろうが、私は、廷吏さんと口頭で話をして、確認する関西や九州の裁判所のやり方が好きである。世間話もできて楽しい。

※3
一般的には、廷吏さんは、開廷時間の10分前には法廷に入っていて、当事者や代理人の確認をしたり、本人訴訟の場合など、親切に裁判の流れなどを教えていたりすることが多い。やさしい廷吏さんに会うと、心が和む。また、廷吏さんと、本人や証人とのやり取りを見ていると、その裁判所が、どういう態度で市民に接しているかがよくわかる。なお、京都や大阪は、全国的に見ても、廷吏さんの態度は、市民にやさしいように思う。出頭カード方式ではないことが原因かも知れない。カードがないと、本人確認をするときに、出頭者と必ず会話をせねばならないからである。なお、出頭カード方式を採用している裁判所でも、廷吏さんは、開廷10分前には法廷に入っていて、当日提出された準備書面や証拠申出書などのチェックをしているのが普通である(東京地裁でも、確かそうである)。出頭した順番なども、人間の眼で確認しているし、初めてその裁判所を訪れた者が、法廷のことについて、廷吏さんに相談することもできるようになっている。私が知る限りでは、開廷時間前に廷吏さんが法廷にいないのは、仙台地裁本庁だけのように思う。

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(注) 本稿は、すでに、京都弁護士会会報(98年1月号)に掲載されたものです。また、京都弁護士会ホームページに於いても再掲されています。原稿に書かれた内容は、白浜が経験した、当時のものであるということを、お断りいたします。

著 白浜徹朗